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頑張れるだけ頑張ろう、そういう思いでブログを書いております。最近は短編小説をメインに書いておりますので、お暇な方はぜひお立ち寄り下さい。


by ore1984
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僕小説 短編1 ライフ・パーツ

「いらっしゃいませ」
「・・・・・・・」
「何かお探しですか?」
「ここはライフ・パーツ(生体部品)ショップですよね・・・・」
「はい、そうでございます。骨、神経、心臓から内臓まであらゆる物を取り揃えております。何かご移植をご希望でございますか?」
「脳は・・・ありますか」
「脳で、ございますか?」
「はい・・・あります?」
「脳ですか・・・脳は残念ながら取り扱っておりません。何故なら、脳は個人個人の”記憶”を司る中枢でございます。・・・脳を変換するということはですね・・・別人になる、ということなのでございます。それゆえ、脳と脳の変換は法律で禁じられており、取り扱いはしておりません。申しわけありません」
「じゃあ、その”記憶”をどうにかできる方法はないかな。例えば記憶を消してしまうとか、変えてしまうとか・・・・」
「記憶を消すのでしたら、脳科に行くことをお勧めしますよ。あちらは脳に関しての専門家ですので、そちらにお願いいたします。こちらはあくまで生体部品の変換が主でございますので」
「ごめん、言い方が悪かった。記憶は消したくないんだ。ただ、自分の脳だけをどうにかしたい・・・そういうことはできないかな?」
「脳だけでございますか。それは脳を別のものに変えて記憶を消さないということですか」
「はい、そんな所です」
「そういうことでございましたら”チップ化”はいかがでございまいすか」
「チップ化?」
「脳の変わりに高性能チップを頭に組み込みまして、それが脳の変わりに記憶の中枢を司る役割を果たすのでございます。今ならば安価で大手メーカーのチップを取り揃えております」
「・・・じゃあ脳をチップに変換するとどうなるのですか」
「では、脳とチップの違いを説明いたしましょう。
 大昔のビデオテープとDVDというものはご存知ですか」
「ああ、知っている。磁気で記憶する媒体と1と0の数字よって記憶する媒体だろ」
「博識でございますね。脳とチップとはそのビデオテープとDVDと同じようなものなのでございます
簡単にいいますと脳の記憶は時間の記憶と共に色あせて徐々に消滅するかカビが生える磁気のようなもの。チップの記憶は時間が経過してもほとんど色あせることも消えることもないデジタルなのです。
では、チップの方が脳よりも優れているのか?と申されますと、そんなことはございません。
物である以上、定期的なメンテナンスを受けなくてはなりませんし、記憶を消す際は手続きを踏まなくてはならないのです。しかし、それを補うほどの記憶力は圧巻です。脳であるならば記憶すらしない出来事もチップでならば記憶しますし、検索してすぐに取り出すことも出来ます。さらに、電脳にアクセスして情報を引き出すことも出来ます」
「・・・・・・・」
「何か、説明に不備がありましたか?」
「・・・いや、別にありません。・・・ただ、脳をチップに替えた場合、心はどうなるのかなと思いまして」
「心・・・人格のことでございますか」
「ええ、人格さえも消えてしまうのはどうも」
「その点はご心配には及びません。記憶と経験から人格が形成されますので、記憶移植の際、自動的に形成されます」
「じゃあお聞きしたいのですが、あなた記憶媒体はチップですか?脳ですか?」
「私ですか、私はチップでございます。職業柄、忘れるという行為はもっとも恥ずべき行為なもので」
「・・・家族や友人に、雰囲気が変わったとか、言われたことは・・・」
「ありません。お疑いなら、チップ変換前と後の家族の精神グラフをお見せしましょうか?」
「いえ、結構です」
「では、どういたしましょうか?脳からチップへの変換はほんの数十分でできます。変換後、自分に会わないと感じられましたら1年間は無料で元の脳に変換できます。それ以降は有料変換でございますが」
「・・・・チップ変換をお願いします」
「かしこまりました。では、こちらから自分にお合いそうなチップをお選びください。ご選びになりましたらこちらで手続きをお願いいたします」

「おはようございます。ご気分はいかがですか」
「・・・・よくわからない。何も変わってないような気がする・・・」
「最初はどの方も同じことをいいますが、すぐに脳との違いを実感いたします。今、この場で体験もできますがどう・・・」
「いや、いい。すぐに帰る」
「そうでございますか、では出口までご案内いたします」
「・・・・・・」
「ありがとうございました。またのご利用をお待ちしています」
「・・・・ねえ、店員さん」
「はい、何でございましょうか」
「死ぬって・・・どんなことだと思う?」
「死、ですか?それは肉体が滅びることではないのでしょうか。今は肉体のクローニングもできますし、若返りもできます。死が訪れるのはそのどの例にも当てはめられなくなり、手の施しようがなくなった時と、私は解釈しています」
「・・・昔、本当に大昔、人間は脳の機能が停止した時、行動も思考も何も出来なくなり、植物状態になり、ただ心臓が止まらなくなるのを待たなきゃならなかった。それは店員が言う死だ。でも今はチップによって記憶も移せる・・・」
「何が言いたいのです」
「僕らは“人間”ですか?」
「人間ですよ。疑うのなら電脳ページの法律項にアクセスして御覧なさい。第599条の12項に<脳をチップに変換後もその人物の人権は変わることはない>と書かれていますから」
「法の上では人間か・・・。でも、今僕らの思考も行動も全てチップが指示しているのですよね」
「そうですよ・・・それが何か」
「それじゃあ僕らは人間の皮を被った“ロボット”ですね」
「ロボット・・・」
「ええ、ただ機械の身体と人間の身体の違いがあるだけの・・・」
「いえいえ、そんなことはありません。何故なら、ロボットは物を食べなくても活動できますが、チップに変換した人間は物を食べなければ活動できません。それだけでも、私達は人間と呼べるのではないでしょうか」
「あくまでボクの考えです。・・・・質問はすみましたので、僕はこれで」
「頭にノイズがあるようですね。どうです、記憶クリーニングを受けてみませんか?不要な記憶をすぐさま消し去ることができますよ」
「別に受けてもいいですけど、それじゃあロボットのノイズクリーンと一緒ですね」
「原理は同じですから」
「でも、僕は目的を果たしましたので、記憶クリーニングを受ける必要ありません」
「目的が済んだ?いったいどのような」
「僕の目的は“死ぬ”ことです。思考も心も人格もすべて脳からチップに移した僕はもう、“生来の人間”と呼べる存在ではないでしょう。ただ、機械が命令して動くただの人形です。
・・・・本当に便利ですよ今の世の中は・・・・自殺さえも手を貸してくれて」
by ore1984 | 2005-02-01 17:08 | ボク小説 短編