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頑張れるだけ頑張ろう、そういう思いでブログを書いております。最近は短編小説をメインに書いておりますので、お暇な方はぜひお立ち寄り下さい。


by ore1984
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僕小説 短編25 恋愛相談

「一つだけ質問していいかな」
「何?遠慮なく言ってくれ。君と僕との仲じゃないか」
「じゃあ聞くけど、君には葛藤が存在するのか」
「ああ、チップ化・・・電脳とも言うけど、脳自体を機械に変えた僕に、葛藤が存在するのか聞きたいわけか」
「まあ、そうだね。出来ることなら聞きたい。今後の参考になるかもしれないし」
「そうだな、一言で言えば葛藤は存在しない。悩みとは似たような衝動に陥ることもあるけれど、一定時間経過すれば自動整理されて通常の思考に戻るし、仮に故障したとしてもバックアップがそれを補う。これらのことを考えた上で、今のところの結論は、葛藤は存在しないといえる」
「確かにそうだね。悩みや葛藤は、深層意識の領域であって、君にはそれが存在しないのだから」
「ケンカを売っているなら買うが、君の質問から算出するに、君の本当の質問は葛藤ではないようだね。電脳の予測がそういっているよ。よかったら君の本当の葛藤を詳しく聞かせてくれないか。客観的な立場になるモードに移行すれば、最適なアドバイスを与えられるかもしれない」
「恋ってわかる・・・?」
「恋?同種の生物に感情移入する性衝動のことだったかな」
「まあ、一般的な認識とは違うけど、それと似ているね。僕は別に、性衝動は起きないけど」
「君は誰かに恋をしたの」
「恋をしたっていえるのか分からないけど、その人に対し、特別な感情があるのは確かだ」
「特別な感情。子に対する愛情。親に対する尊敬心。異性に対する衝動。君は異性に対して何かしら感情が沸いているらしい。どうやったらその感情が制御できるかは、僕のデータには存在しない。現在までの累積データからの答えは、何かしらきっかけを得て、対象に近づくしかない」
「まさしく客観的な答えだね。主観がまるでない」溜息をついた「・・・僕の悩みというのは、その異性の対象がアンドロイドという点だ」
「アンドロイドでも性行為は可能だ。子孫は卵子バンクから選び、自分のDNAを挿入すればいい。君の悩みとはそんなことなの」
「・・・脳の電脳化が進むに連れて客観的に物事をはかる人間が増えた。揺らぎも何もなく、ただ答えだけを述べる。はたしてそれは人間なのか。人間の定義とは何なのか。どうして人は己の脳を捨て、電脳化を望むのか。電脳人と話しをしていると、永遠に物議を醸し出しそうな論議を再開したくなる」
「本題からずれないほうがいい。君はアンドロイドに恋をし、どうしたら成就するか僕に聞いているのだろう。僕はさっき答えを言った。それに対し、僕は君の返答を待っている。答えはなんだ?」
「君の言ったことは正論で、僕の悩みは無駄なんだろう。言わずともわかっている。答えはただ一つ、恋するアンドロイドを自分のものにし、卵子バンクから卵子を選び、子供を創って幸せになる。それでいいんだろう」
「言い方が気になるな。まるでそれじゃ、僕は君に対し、分かりきった答えを言っているようなものじゃないか」
「実際にそうだ。僕は君意外にも何人かの電脳人に同じ質問をした。そして帰ってくるのは全て同じ答え。何度も同じ答えをいえば、分かりきっているのは当然だよ」
「不可解なことをするね。わかりきっている答えを君は何故求め続ける。時間の無駄でもあるし、得るものはなにもない」
「そのとおり。答えを知っていて、同じことを聞くことはない。でも生身の脳を持っている人間はこうも考えてしまうんだ。最適な答えを電脳人は持っているのではないかとね」
「最適な答え?僕は客観かつ、理想的な答えを言ったはずだ」
「質問に対する回答と問題に対する答えは違う。君は前者、僕が求めているのは後者。その違いがわかるかい」
「意味不明だ。・・・少し、脳にノイズが生じた、少し待ってくれ」
「聞いてなくてもいいけど、ある話を思い出すね。一昔の人は、コンピュータに自分の未来の選択を任せていた。人々はその中で幸せを噛みしめていた、疑問すら感じずに。その中でたった一人の少年が自我に目覚め、人々を先導し、コンピュータを破壊した。そして、人々は自由を得て、人としての生を歩む様になった」
「・・・・・・」
「今の君はそのコンピュータが脳の中にあるね。絶対的な防護壁に守られた機械の脳。破壊する方法もなく、人ではない人を生み出す天使の皮を被った悪魔。人が人として存在理由を消失させ、回答を述べ、答えを与えない」
「・・・・・・初期化完了。ええっと、どういう話だったっけ?」
「恋愛相談だよ」
「そうだったね。それに対する僕の答えは・・・」
by ore1984 | 2005-10-24 17:01 | ボク小説 短編