「ヤマザキさん・・・。本当に僕らはこのまま、この任務を続けていていいのでしょうか」
彼にとって、今与えられている任務はとても不満だった。合法的にしろ、人を殺さねばならないからだ。
「しかたないわよ。わたしたちだって食べていかなきゃならないし、それにほら、ノルマを達成しなきゃ減俸されちゃうし」
彼女はあくまでポチティブに物事を考えている。自分達のやっていることは、あくまでも任務と割り切っているのだ。
「しかし・・・いや、でも命ですよ、命。命はお金で買えますか?買えませんよね。それを僕らは任務とはいえ、奪うことになるんです。いいんですかそれでも。・・・言いたくはありませんけど、ターゲットは僕らと『同じ』わけですし」
彼の口ぶりには迷いがあった。どうも彼は自分の任務を割り切ってはいないらしい。
彼女はいつまでも迷い続けるパートナーに業を煮やし、いきおいよく迫った。
「ニシカワくん、わたしたちはなに?どういう存在。それなのに感情なんかで任務を左右されちゃたまんないわよ。いい、わたしたちに必要なのは、任務を遂行するための『意思』と生きるための『目的』よ。もしも、わたしたちがこの任務からはずされたら、復帰するまでどれだけ時間が掛かると思っているのよ!」溜息をついて「別にわたしたちじゃなくてもいいってこと、それだけは忘れないで」
「すみません・・・つい」
「まっ気持ちはわからないでもないわ。なにせ、同族を殺さなきゃならないんだからね」
二人は僻地から閑静な住宅街へと移動した。
現在は、人通りが少ない。彼らにとって、これ以上にない任務遂行日和と言えよう。二人はターゲットの住居から死角になるポイントに陣を敷いた。
「ターゲットのポイントは、この場所のええっと」
「西地区29、Y241、R125。それくらいおぼえていなさいな。もし、単独で任務を遂行する場合、それじゃ失敗しちゃうわよ」
「すみません。記憶力には自信があるのですけど、ついメモをとらなくて」
「メモは情報を客観的にするから、常に書く癖を見つけなさい。記憶なんてものは、時間とともに曖昧になって正確性にかけるんだから」
「でも、先輩たちはメモなんてとってませんよ」
「新人の分際で風体なんて気にしない。必要なのは、正確な情報を常に保持することなんだから・・・あっ外に出たわよ」
若い男が幼い子供を肩車しながら家の扉を開けた。今、この瞬間狙われていることなど知らず、まるで警戒心がない。
ターゲットを影から観察している二人は慎重に品定めを始めた。
「ターゲットの容姿確認。プロフィールデータ確認。対象は99.9998%の確率でターゲットであると確定できます」
「よっし、じゃ、とっと殺っちゃおう。後味残さずね」
「でも、子供がいますよ。遺伝子プログラムDを解除されない限り、子供は作れないはずなのに」
「どうせ、ターゲットを匿っている一般人かなんかの子供でしょう。ああいう輩が匿われている場合、親代わりになるケースはよくあることよ」
「でも、この場でターゲットを暗殺してしまったら、子供は」
「ニシカワくん!」
「すみません」
「まあいいわ、わたしがやるからしっかりサポートよろしく。あなたは子供の方を眠らせて、わたしはあわてふためくターゲットを撃つから」
「えっ眠らせる? どうやって・・・」
「遺伝子休止弾、基礎中の基礎よまったく」
「すみません」
彼女は風を切るような素早い動作で、背中に背負っている黒塗りのバッグから小銃とライフルを取り出した。ライフルをパートナーである彼に渡し、自分は小銃に銃弾を詰めた。弾数は1発。はずすことは許されない。
「いいわね、タイミングが重要よ。あなたはライフルで子供を狙って、わたしは眠らせた隙にターゲットを狙うから」
「一ついいですか?」
「10秒以内に言って」
「どうしてヤマザキさんが銃で僕がライフルなんですか?」
「確率を上げるため、音を減らすため、私の場合撃ったことを周囲に知らせるため、以上。やるわよ」
「はい・・・」
彼はライフルを地面に固定して、幼い子供にひょうじゅんを向ける。タイミングが大事だ。このタイミングをはずすと、当分の間、狙えなくなる。
「南無さん」
引き金が引かれた。
銃弾は子供のこめかみに当たり、すぐさま消滅する。
殺人を目的とする銃弾以外は、人体に影響を与えないよう配慮されている。
子供の異変に気づいた男は、動きを止め、肩から子供を下ろした。彼は慌てて、子供の名前であろう、何度も何度も呼びかけている。
「へーっ思ったより、いい腕じゃない。あらあらターゲットは大慌てね、私らに気づいたかしら!っと」
彼女も引き金を引いた。銃は派手な音を上げて、銃弾を発射した。銃弾は正確にターゲットの心臓に吸い込まれた。
ターゲットは白目を剥いて、膝から順にうつむけに倒れた。
「ミッションコンプリート。あとは情報部に任せましょう」
「・・・・・・」
「どうしたの?」
「子供・・・子供がいました。彼には子供がいました。とても心配していました。それを僕は」
「感情に流されちゃだめよ。わたしたちは『生き残った残飯』なんだから、いちいち気にしたら死ぬわよ」
「でも!」
「何度も言うようだけど、私達は『廃棄された医療用クローン』なのよ。依頼人がいらないと言ったら、わたしたちはいらない存在なの。わかる? 昔、ニシカワくんとわたしは『ターゲット』のように施設から脱走して、彼と同じような道を選ぼうとしたわ。でも、それはできなかった。わかりきっていることね。彼のように何度、何度も投稿状を無視してきた結果こうなる。わたしたちは生きるために殺さなきゃならないのよ、それを忘れないで」
「僕らにだって個性はあります。オリジナルとは違う性格だって」
「文句言うなら法律相談所に言ってね。まあ、わたしたちには人権はないけどね」
彼女は一息ついて、落ち込んで何も言えない彼の背中を押した。
「減俸されて、殺しの数を増やしたくないでしょ。だったら、殺しなさい。殺して、殺して、殺しまくるの。そして、1000人殺して、わたしたちは自由になる。ねっ。」
「はい・・・・・・」
「さて、人が来るからとっとずらかろう」
彼にとって、今与えられている任務はとても不満だった。合法的にしろ、人を殺さねばならないからだ。
「しかたないわよ。わたしたちだって食べていかなきゃならないし、それにほら、ノルマを達成しなきゃ減俸されちゃうし」
彼女はあくまでポチティブに物事を考えている。自分達のやっていることは、あくまでも任務と割り切っているのだ。
「しかし・・・いや、でも命ですよ、命。命はお金で買えますか?買えませんよね。それを僕らは任務とはいえ、奪うことになるんです。いいんですかそれでも。・・・言いたくはありませんけど、ターゲットは僕らと『同じ』わけですし」
彼の口ぶりには迷いがあった。どうも彼は自分の任務を割り切ってはいないらしい。
彼女はいつまでも迷い続けるパートナーに業を煮やし、いきおいよく迫った。
「ニシカワくん、わたしたちはなに?どういう存在。それなのに感情なんかで任務を左右されちゃたまんないわよ。いい、わたしたちに必要なのは、任務を遂行するための『意思』と生きるための『目的』よ。もしも、わたしたちがこの任務からはずされたら、復帰するまでどれだけ時間が掛かると思っているのよ!」溜息をついて「別にわたしたちじゃなくてもいいってこと、それだけは忘れないで」
「すみません・・・つい」
「まっ気持ちはわからないでもないわ。なにせ、同族を殺さなきゃならないんだからね」
二人は僻地から閑静な住宅街へと移動した。
現在は、人通りが少ない。彼らにとって、これ以上にない任務遂行日和と言えよう。二人はターゲットの住居から死角になるポイントに陣を敷いた。
「ターゲットのポイントは、この場所のええっと」
「西地区29、Y241、R125。それくらいおぼえていなさいな。もし、単独で任務を遂行する場合、それじゃ失敗しちゃうわよ」
「すみません。記憶力には自信があるのですけど、ついメモをとらなくて」
「メモは情報を客観的にするから、常に書く癖を見つけなさい。記憶なんてものは、時間とともに曖昧になって正確性にかけるんだから」
「でも、先輩たちはメモなんてとってませんよ」
「新人の分際で風体なんて気にしない。必要なのは、正確な情報を常に保持することなんだから・・・あっ外に出たわよ」
若い男が幼い子供を肩車しながら家の扉を開けた。今、この瞬間狙われていることなど知らず、まるで警戒心がない。
ターゲットを影から観察している二人は慎重に品定めを始めた。
「ターゲットの容姿確認。プロフィールデータ確認。対象は99.9998%の確率でターゲットであると確定できます」
「よっし、じゃ、とっと殺っちゃおう。後味残さずね」
「でも、子供がいますよ。遺伝子プログラムDを解除されない限り、子供は作れないはずなのに」
「どうせ、ターゲットを匿っている一般人かなんかの子供でしょう。ああいう輩が匿われている場合、親代わりになるケースはよくあることよ」
「でも、この場でターゲットを暗殺してしまったら、子供は」
「ニシカワくん!」
「すみません」
「まあいいわ、わたしがやるからしっかりサポートよろしく。あなたは子供の方を眠らせて、わたしはあわてふためくターゲットを撃つから」
「えっ眠らせる? どうやって・・・」
「遺伝子休止弾、基礎中の基礎よまったく」
「すみません」
彼女は風を切るような素早い動作で、背中に背負っている黒塗りのバッグから小銃とライフルを取り出した。ライフルをパートナーである彼に渡し、自分は小銃に銃弾を詰めた。弾数は1発。はずすことは許されない。
「いいわね、タイミングが重要よ。あなたはライフルで子供を狙って、わたしは眠らせた隙にターゲットを狙うから」
「一ついいですか?」
「10秒以内に言って」
「どうしてヤマザキさんが銃で僕がライフルなんですか?」
「確率を上げるため、音を減らすため、私の場合撃ったことを周囲に知らせるため、以上。やるわよ」
「はい・・・」
彼はライフルを地面に固定して、幼い子供にひょうじゅんを向ける。タイミングが大事だ。このタイミングをはずすと、当分の間、狙えなくなる。
「南無さん」
引き金が引かれた。
銃弾は子供のこめかみに当たり、すぐさま消滅する。
殺人を目的とする銃弾以外は、人体に影響を与えないよう配慮されている。
子供の異変に気づいた男は、動きを止め、肩から子供を下ろした。彼は慌てて、子供の名前であろう、何度も何度も呼びかけている。
「へーっ思ったより、いい腕じゃない。あらあらターゲットは大慌てね、私らに気づいたかしら!っと」
彼女も引き金を引いた。銃は派手な音を上げて、銃弾を発射した。銃弾は正確にターゲットの心臓に吸い込まれた。
ターゲットは白目を剥いて、膝から順にうつむけに倒れた。
「ミッションコンプリート。あとは情報部に任せましょう」
「・・・・・・」
「どうしたの?」
「子供・・・子供がいました。彼には子供がいました。とても心配していました。それを僕は」
「感情に流されちゃだめよ。わたしたちは『生き残った残飯』なんだから、いちいち気にしたら死ぬわよ」
「でも!」
「何度も言うようだけど、私達は『廃棄された医療用クローン』なのよ。依頼人がいらないと言ったら、わたしたちはいらない存在なの。わかる? 昔、ニシカワくんとわたしは『ターゲット』のように施設から脱走して、彼と同じような道を選ぼうとしたわ。でも、それはできなかった。わかりきっていることね。彼のように何度、何度も投稿状を無視してきた結果こうなる。わたしたちは生きるために殺さなきゃならないのよ、それを忘れないで」
「僕らにだって個性はあります。オリジナルとは違う性格だって」
「文句言うなら法律相談所に言ってね。まあ、わたしたちには人権はないけどね」
彼女は一息ついて、落ち込んで何も言えない彼の背中を押した。
「減俸されて、殺しの数を増やしたくないでしょ。だったら、殺しなさい。殺して、殺して、殺しまくるの。そして、1000人殺して、わたしたちは自由になる。ねっ。」
「はい・・・・・・」
「さて、人が来るからとっとずらかろう」
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by ore1984
| 2005-11-28 18:30
| ボク小説 短編