選択という岐路を徹底的に省き、コインの表と裏と同様、選び取れる道が二択しかなかったら。
「単純だけど、食うか食われるかの弱肉強食の世界ではごく当たり前の定義だと思うけどな」
「・・・・・・やるか、やらないか。食べるか、食べないか。死ぬか、生きるか。単純だけど、ある意味では君の定義は真意をえているのかもしれない」
「だろ?」
「しかし、人間はそんなに単純になれない。人間には心という根幹ともいうべき、解読できない箇所が存在する。正確いえば、心を携えているのは人間だけじゃないけれど、他の生物達には何故か複雑な心理を表すことができない。そこが、他の生物から人間が一歩踏み出した要因とも言えるけど」
「うーん、でもさ、人がすごく単純な選択しかできなかったと仮定したらどうかな。人は、他の動物達と同様のランク落ちしてしまうかな」
「ランクは下がらない。たった二択しか選択できなかったとしても、人には驚異的な学習能力があるから、結果は他の生物とは比較にならない。例を上げるとしたら、メスの争いに負けたライオンが、勝ったライオンに近かづかなくなって、どんな手段を用いてもメスを奪い返したいとは思い至らないぐらいに違う」
「????」
「簡単に言えば、人ほどの思慮深さが他の生物にはないということ。人間なら力で負けても他の手段を使えば勝てる。たったそれだけの単純なこと」
「あ・・・あっそういうことね」
「そういうこと。二択しか選択がなかったとしても、生物によって過程が違うから結果は全く別物になる。人が仮に二択しか選択できなかったとしても満足する結果を得られると僕は断言する」
「・・・言っていることは俺の頭程度では把握するのは難しいけど、要するに人なら二択でも良い結果をだせるということだろ。だけど、それってお前、検証したことあるのか?」
「いや、あくまで仮定」
「じゃあ、今この場で検証してみようか」
「面白いとは思うけど、どうやって?」
「ここにコインがある。これの裏表にルールを決めてそれに殉じする単純なゲームをしよう」
「いいよ。それでルールは」
「まず表が出た場合、お前はそこの路地を真っ直ぐ進む。裏が出た場合、俺がその路地を真っ直ぐ進む。単純だろ。ああ、そうそうこんなので検証できるのか?何て野暮なことはいうなよ。一応、俺も考えて行動しているんだから結果だけは出してやるよ」
「そこまで言いはしない。人によって、同じ行動をとったとしても全く別の結果が出るものだから」
「・・・前置きはいいから、早速スタートしよう」
「うん」
コインは上空に弾かれると高速回転で上昇し、そして徐々に下降して少年の掌に着地した。
「・・・・表だな」
「そうだね」
「じゃあお前は早速、その路地を真っ直ぐ進んでくれ。どんなルートをでもいいからここに戻ってくればいい」
「わかった。じゃあ後で面白い結果を君に報告するよ」
片方の少年が路地に消える。
「・・・悪い奴じゃないんだけど、どうしてこうあいつはへりくつが多いんだろうな」
少年は器用にコインを弄びながらぼやいた。手の中で踊り狂っているコインは、よく見ると表だけで裏がない。
「二択ていうのは、意外な盲点だよね。二択の選択をしていると思っていても、実際は一つの道しか提示されていないかもしれない。理屈や論点に視界を覆われて、トラップに引っかかる人間。二択を知らない動物と二択という定義に視界を狭められた人間。どちらのほうが本当に正しい選択をしてんだか」